就農を計画中のはたけもんです。
農業経営を考える上でいつも気になるのが、野菜の単価。
苦労して収穫にこぎつけたのに、市場価格が安過ぎて赤字続き… といった話は珍しくありません。
どうにか付加価値をつけて経営を安定化する方法はないものかと考えていたところ、こんなニュースを目にしました。
農林水産省は、2050年までに耕地面積の25%を有機農業にする方針とのことです。
有機農業については様々な意見がありますが、生産者のメリットとしてはやはり付加価値がつけられること。
通販サイトをのぞいて見ると、慣行栽培品と比べて5割以上高い価格で販売されていることがわかります。
詳しくはこちらにまとめましたので、興味がある方はご覧ください。
政策の中身はこれからですが、これから有機農業に取り組めばなんらかの形で優遇措置が受けられるかも?という期待もありますし、有機農業の社会的な意義についても興味がないわけではありません。
まずは勉強から!ということで、今回は有機農業に使われる肥料、「有機肥料」について調査してみたいと思います。
これから施肥設計に取り組まれる方、また有機肥料ってそもそも何?という方、参考にしていただけるとうれしいです。
有機農業の定義について
「有機農業」や「オーガニック」という言葉をよく耳にしますが、厳密にはどういったことを意味しているのでしょうか。
農林水産省の定義は以下の通り。
有機農産物とは
1. 周辺から使用禁止資材が飛来し又は流入しないように必要な措置を講じている
2. は種又は植付け前2年以上化学肥料や化学合成農薬を使用しない
3. 組換えDNA技術の利用や放射線照射を行わない
など、「有機農産物の日本農林規格」の基準に従って生産された農産物のことです。
引用:農林水産省【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~
今回のテーマである肥料については、「化学肥料を使用しない」ことがポイントのようです。
反対に有機農業で使用できる肥料、いわゆる有機肥料は有機JAS規格の別表1で定められています。
堆肥や草木灰はわかりますが、グアノ?のような聞き慣れない言葉も登場しますね。
施肥設計に向けて、まずは有機肥料の種類について調べてみようと思います。
堆肥
有機肥料の代表的存在である堆肥。ルーラル電子図書館の農業技術辞典によると、堆肥とは以下のようなもののことを言います。
農業利用を目的として、家畜糞尿、稲わら、生ごみなどの有機物を堆積し、微生物の働きで好気的に分解させたものを堆肥という
引用:農業技術辞典
堆肥って畑に入れる時が大変ですよね。
大きい畑で機械が使えるのならいいのですが、小さいハウスに入れようと思うと重たい堆肥を手でふっていかなければなりません。
また堆肥が未熟で発酵途中だったりすると、まさにほかほかのうんち…という感じの手触りで、なんとも言えない気持ちになったこともありました。笑
ただし、苦労して入れるだけあって堆肥の効果は大きい!
小祝先生の著書によると、堆肥の機能は以下の6つです。
①土壌団粒を作る(接着物質)
②豊富な有用微生物とそのエサがある
③有機の窒素を供給する
④保肥力がある
⑤ミネラルを可溶化する力がある(腐食酸)
⑥水溶性炭水化物が地力として働く
引用:有機栽培の肥料と堆肥 小祝政明著
土壌の改良効果と肥料としての効果が両方あるんですね。
そして堆肥にはその材料によって種類があるようです。
牛糞堆肥
C/N | N | P | K | Ca | Mg | B | Mn | Fe | |
牛糞堆肥 | 15 | 1 | 1 | 2 | 2 | 0.6 |
牛の糞におがくず等を混ぜて発酵させたものが牛糞堆肥です。
牛糞堆肥は、チッソ、リンといった肥料成分が比較的少なく、代わりにC/N比が高い(繊維質が多い)という特徴があります。
肥効はほどほどでOK、でも土壌改良効果は欲しい!というときに使いたいですね。
豚糞堆肥、鶏糞堆肥
C/N | N | P | K | Ca | Mg | B | Mn | Fe | |
豚糞堆肥 | 9 | 5 | 2.5 | 2.5 | 4 | 1.7 | |||
鶏糞堆肥 | 9 | 3 | 3.5 | 2.5 | 12 | 1.7 |
鶏糞堆肥や豚糞堆肥は肥料成分のチッソ、リン、カリを豊富に含む一方、C/N比は低い堆肥です。
土壌改良効果は限定的ですが、肥効が早く現れるので栽培期間の短い葉菜類の元肥に向いているようです。
バーク堆肥
C/N | N | P | K | Ca | Mg | B | Mn | Fe | |
バーク堆肥 | 35 | 0 | 0.2 | 0.2 | 2 | 1 |
バーク堆肥は樹皮を発酵させて作られた堆肥です。
肥料成分はほとんど含んでいませんが、C/N比が高く土壌改良効果大!
ただしチッソを含まない土壌に入れると窒素飢餓を引き起こす恐れがあるので、チッソを含む他の有機肥料と一緒に使った方がよいそうです。
近くに堆肥を製造している牧場や堆肥センターがあれば譲ってもらえるようですね。
ただし取りに行くにしても、ダンプが必要になるかも…
乾燥品であれば、市販品もあるようですよ。
ぼかし肥
C/N | N | P | K | Ca | Mg | B | Mn | Fe | |
ぼかし肥 | 10 | 4 | 5 | 2 |
堆肥の次によく耳にする有機肥料が、ぼかし肥(ぼかしごえ)です。
農業技術辞典によると、ぼかし肥とは以下のような肥料のことを言います。
油かす類、魚かす、米ぬか、鶏糞などの有機質肥料を主な原料とし、微生物による有機物の分解を施して製造した肥料のこと
引用:農業技術辞典
油かす(大豆やナタネなどから油を絞ったあとの残りかす)や魚かすなどを肥料として使う技術自体は江戸時代からあるみたいです。
農家がお金を出して購入する肥料だから、金肥(きんぴ)と呼ばれていたそう。
現代でも油かすや魚かすを直接有機肥料として使うことがありますが、これには以下のような問題があると言われています。
・分解に時間がかかり、肥料としての効きめが遅い
・分解によって生じたアンモニアガスが作物の生育を阻害することがある。
こういった問題を解決するために作られるのが、ぼかし肥です。
糸状菌や酵母菌、納豆菌などの力をかりて材料をあらかじめ発酵させることで、肥料としてある程度即効性があり、かつアンモニアガス障害の心配がない状態に仕上げることが出来ます。
C/N比は低く土壌改良効果は堆肥ほど大きくありませんが、即効性があるので元肥のほか追肥としても使うことが出来ます。
ちなみに自前で作るとなると時間とスペースが必要になりますが、最近は市販品として簡単に入手可能です。
粒状で機械施肥にも対応!化成肥料みたいに使いやすい有機肥料
粒状で機械施肥にも対応!化成肥料みたいに使いやすい有機肥料
出典:朝日アグリアwebサイト
C/N | N | P | K | Ca | Mg | B | Mn | Fe | |
有機アグレット 666 | 6 | 6 | 6 | 1 |
インターネットで検索をかけると、よく目にするのが朝日工業の有機アグレットシリーズ。
その売りは、有機JAS規格適合(一部適合しないものもあるので要注意)でありながら粒状かつ均一に成形されていて、機械で散布が可能という点です。
動植物有機に加里源として植物体より由来する草木加里(パームやしの燃焼灰)を使用しています。化学肥料は全く使っていない肥料ですから、商品性の高い「おいしい」作物づくりに役立ちます
引用:朝日アグリアwebサイト
単にぼかし肥を粒状に固めた物とも違うようですが、肥料成分量も選択できて従来の化成肥料みたいです。
有機アグレットシリーズはJAの専売のようですが、一般にはこんな商品もあるみたい。
お手軽に有機農業が始められますね。
リンを多く含む肥料!グアノ
C/N | N | P | K | Ca | Mg | B | Mn | Fe | |
バットグアノ | 0.04 | 12 | 0.2 | 40 |
鳥やコウモリが魚や昆虫を食べて消化し、糞として長年堆積したものがグアノです。リンやカルシウムが豊富に含まれています。
それにしても聞きなれない語感の言葉ですが、それもそのはず、その昔南米のケチュア族がグアノを肥料として使っており、その言葉が由来となっているそうです。
古くから肥料として使われてきた歴史があるんですね。
そのグアノ、リンが10〜20%と他の有機肥料を圧倒する含有量を誇ります。
堆肥やぼかし肥だけではリンが不足する場合に便利ですね。
肥料店、ホームセンター、ネット通販で手に入ります。
草木灰
出典:川合肥料オンラインショップ
C/N | N | P | K | Ca | Mg | B | Mn | Fe | |
草木灰 | 1 | 20 | 15 | 2 | 0.5 | 0.5 |
そういえば、その昔に日本史の授業で習ったことを思い出しました!
草木を燃やした後に出る草木灰は、古くから貴重な肥料として使われてきた歴史があるのです。
肥料成分としてはカリウム、カルシウムを豊富に含む他、マグネシウム、マンガン、鉄といった微量要素を含有しています。
長期間作付けを続けてきた圃場ではこういった微量要素が不足している場合があるので、土壌診断の結果を踏まえて草木灰を利用してみるのもよいでしょう。
ただし、pHが上がりやすい点に注意が必要です。
天然貝化石
C/N | N | P | K | Ca | Mg | B | Mn | Fe | |
天然貝化石 | 40 | 2 | 1 |
天然貝化石はその名の通り古い地層に堆積し化石化した貝殻のことで、主成分は炭酸カルシウムです。
草木灰と同じ石灰資材ですが、注目すべきはカルシウムの含有量、およそ40%と草木灰の3倍ほど多く含まれています。
酸性土壌の中和、カルシウムの補給に使いましょう。
天然苦土肥料
C/N | N | P | K | Ca | Mg | B | Mn | Fe | |
天然苦土肥料 | 50 |
苦土(マグネシウム)は植物の光合成に必須の元素です。
多くの市販化成肥料に含まれていることからも、作物の成長に欠かせない肥料成分であることがわかります。
マグネシウム肥料の成分としては、水溶性で即効性のある硫酸マグネシウムと、く溶性(植物の根から分泌される酸で溶け出す性質)で長期肥効型の水酸化マグネシウムがあります。
双方とも化学合成品が主流ですが、天然の鉱物由来のものは有機肥料として使用することが出来ますので、有機JAS適合と表示のあるものを選びましょう。
土壌診断を行なって施肥設計に活かそう!
出典:富士平工業株式会社webサイト「農家のお医者さん」
ここまで有機栽培に使用できる肥料について調べてきましたが、肥料設計を行う上でもう一つ重要なことが土壌診断です。
作物に合わせた肥料設計をしているつもりでも、いつの間にか土壌肥料成分の過不足が生じて栽培がうまく行かなくなった…というのはよくあることのようです。
農研機構の「減化学肥料栽培・有機栽培のための土壌管理マニュアル」では以下のように説明されています。
化学肥料の単肥を用いれ ば欠乏状態になった成分のみを施用して、過剰になった成分は施用しないという手段がありますが、有機栽培の場合は、施用したくない成分を含まない肥料を探すことはかなり困難です
…中略…
家畜糞堆肥の場合は、植物質堆肥に比べて肥料成分を高濃度に含んでいるため、土壌診断による基肥量の調節なしに過剰に施用した場合は、栽培期間中の肥料成分の調節が非常に難しくなります
引用:農研機構
化成肥料と違い肥料成分を調整しにくい有機肥料は、過剰に使用すると調整が難しいのですね。
土壌分析なんて難しそう…という感じもしますが、分析センターに依頼する方法や自分でできるキットもあるようです。
まずは土壌分析から挑戦してみましょう!
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