環境に対する意識の高まりや健康志向を背景として、年々存在感を増してきている有機農業。
慣行農業の経験しかない私にとっては化学肥料も農薬の多くも使わず作物を生産する有機農業は未知の領域で、「そんなことが本当に可能なの?経済性はあるの?」となぜか抵抗感すら感じてしまう有様です。
しかし資材価格の高騰と青果価格の低迷に苦しむ日本の農業の現状をふまえると、「本当は有機農業って経済的に合理的な選択肢なのでは?」と思えるような情報がちらほら耳に入ってくるように…
そんな疑問を解消するべく、有機農業と慣行農業の収入、経費、労働時間について調査をすることにしました。
第一弾の今回は、ニンジン編です。
有機農業を取り巻く情勢
まず有機農業の定義を確認しておきましょう。
国では、平成18年度に策定された「有機農業推進法※注4」において、有機農業を「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。」と定義されています
引用:農林水産省【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~
日本で遺伝子組み換え野菜品種の栽培は現状ないことを考えると、実質「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと」が有機農業の定義と考えてよさそうです。
有機食品の需要は年々増加している
出典:農林水産省 有機農業をめぐる事情 世界の有機食品売上の推移
有機食品とは有機農産物、有機畜産物およびそれらの加工品の総称です。
上のグラフは世界の有機食品の売り上げ推移を示していますが、1999年以降20年にわたって右肩上がりが続いています。
国別の売上高トップはアメリカ。そのあとドイツ、フランス、中国(!)と続き、日本はオーストリアに続き11位です(農林水産省 有機農業をめぐる事情 世界の有機食品売上の推移)。
国民一人当たりの消費額においても日本は11位ですが、アジアではトップの数字となっていてそれなりに関心が高いことがうかがえます。
ちなみに、2017年時点での日本の有機食品市場規模は1,850億円です。
日本の消費者は有機食品を購入したいと思っている!
出典:農林水産省統計 平成27年度 農林水産情報交流ネットワーク事業 全国調査 有機農業を含む環境に配慮した農産物に関する意識・意向調査
オーガニック農産物等の購入の意向等について
一般的な生活水準で暮らしていると、有機食品を見かける機会はさほど多くないのではないでしょうか。
その取り扱いは一部のスーパーやネット通販に限られ、手にとるどころか目にする日の方が少ない、というのが実感です。
ところが、農林水産省の調査(オーガニック農産物等の購入の意向等について)によると、有機食品(オーガニック農産物等)を2〜3日に一度は食べたいと思っている人が最も多く、25%を超えていることがわかりました。
実際の消費量としてはまだまだ少ない有機食品ですが、消費者の関心は高いと言えそうですね。
「みどり戦略法」が成立、有機農業を政府が後押し
2022年4月22日、「みどりの食糧システム戦略」を推進する新法が国会で可決しました。
有機農業などに取り組む農家を融資や税制面で支援する取り組みが近くスタートするようです。
消費の拡大、生産者の関心の高さ、政府の方針、どれをとっても今後有機農業が拡大していく要素ばかりですね。
有機栽培の野菜は高く売れるのか?ニンジン小売価格を調査
上のグラフは慣行栽培のニンジン (標準品)と有機栽培のニンジンの小売価格を比較したグラフです。
年間を通して有機栽培品の価格が6割から9割高いことがわかります。
青果安の時代、売り上げ向上の一手として検討する価値がありそうです。
そしてこちらは、有機食品専門の卸業者さん「オーガニックフーズ普及協会」のwebサイト。
ニンジンのみならず多くの有機野菜の取り扱いがあります。
リアルタイムの小売価格を確認されるならここがおすすめです。
ニンジンの有機栽培にかかる労力はどのくらいなのか?労働時間を調べてみた
高単価を狙える有機栽培ですが、当然デメリットがあります。
それは手間がかかること。
有機JASの認証など事務的な仕事を除いたとしても、化学合成の農薬が使えないというのは農家にとって大きな不安材料です。
特にニンジン栽培の場合、品質を大きく左右するのは雑草管理。
雑草に負けると地上部が伸びず、ニンジンが太らない、形や大きさが不揃いになるなど品質が不安定となる原因になります。
慣行栽培の場合、タネをまく前に除草剤を撒いて対応します。その所要時間は10aあたり1時間ほど。
一方の有機栽培ですが、除草剤を使えないので次のような方法で除草を行っているそうです。
- 畝に透明マルチを貼って太陽熱消毒(秋作のみ可能)
- 中耕で除けない株間の草は、人の手で抜いていくしかない
- 除草が遅れてある程度雑草が大きくなると、すぐ近くのニンジンを痛めないよう慎重に抜かなければならない
露地ニンジンのように機械化が進む品目では、この手間が非常に厄介であることは容易に想像できますね。
こうした理由から、10aあたりの労働時間(露地栽培ニンジンの場合)は慣行栽培が173時間であるのに対して有機栽培が222時間、有機栽培の労力はおよそ3割増!
これが有機農業の規模がなかなか拡大しない原因の一つとなっています。
有機栽培の方が面積あたりの所得が高いものの、時間あたりの所得は慣行栽培と変わらない
有機栽培のニンジンは高単価で売れるものの手間がかかる、ということが分かりました。
それでは結局、経営上はどちらが儲かるの?という疑問に答えてくれるのが上に示した農林水産省のデータです。
※ただし、千葉県のある有機栽培ニンジン農家さんの経営データと一般的な露地ニンジン農家さんの経営データを基に作成されています。偏りが大きいデータである可能性に注意が必要です。
まず収量ですが、有機栽培のニンジンは慣行栽培に比べて約25%少ないことが分かります。
あくまで一農家さんのデータではありますが、有機栽培は雑草や病害に晒されやすく収量が不安定になりやすいため、そのリスクを考慮して収量予測は低めに見積もった方が良さそうです。
そして反対に、経営費は3割以上少ないとのこと。
農薬や高価な化学肥料を使わないことで、コストダウンが図れます。(とはいえ、一般的な経営指標を調べても両者が経営費に占める割合は1割弱。データの元となった農家さんは、有機栽培とは関係のないところでコストダウンをされているようですね)
こういったデータを基に所得を算出すると、有機栽培のニンジンは慣行栽培に比べて25%ほど所得が高い、という結果となります。
反収は減少するものの、高単価・低コストで収入の向上が期待できますね。
ただし!忘れてはならないのが作業時間の多さです。
時間あたりの所得に換算すると、両者はほぼ同等。
有機農業においては、いかに収量を確保しつつ労働効率を上げるかが経営の鍵になりそうです。
コメント
コメント一覧 (1件)
[…] 有機農業って儲かるの? 収入、経費、労働時間を調査!ニンジン編 […]