元ブリーダーの筆者が、ホウレンソウ品種のおすすめランキングを作成しました。
公的機関により実施された品種比較試験の成績を参考とし、プロ向けに品種を選定しております。
参考にしていただけると幸いです。
- 元野菜ブリーダー(品種改良をする人)
- 機能性野菜品種の開発等を担当
- 得意なこと:野菜の栽培、市場調査
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ホウレンソウの作型について
ホウレンソウの作型は、栽培に最も適した秋まきを中心としてハウス栽培が中心の冬まき、病害や抽苔に注意が必要となる春~夏まきがあります。
ここでは、秋~冬まき、春~夏まきの二つに分けてご説明します。
秋~冬まき
ホウレンソウの栽培に適した作型です。
早くまけば年内に、遅くにまく場合(ハウス栽培が中心)は翌年の春に収穫期を迎えます。
年を越す場合は生育期間が長くなるため、寒さに強い品種を選ぶとよいでしょう。
春~夏まき
ホウレンソウは長日条件で抽苔が早まる性質があります。
日照時間が長くなる春~夏は抽苔のリスクが大きくなるので、晩抽性品種がおすすめ。
また、気温の上昇とともに萎凋病、立枯病といった病気が多くなる作型です。
病害に強い品種を選ぶとよいでしょう。
秋~冬まきホウレンソウのおすすめ品種ランキング
1位 クロノス
濃緑で高収量、加工にも向く!
開発元 | サカタのタネ |
受賞歴 | 第58回全日本野菜品種審査会一等賞受賞 |
特性1 | 低温伸張性が高い |
特性2 | 早生・濃緑・高収量 |
特性3 | 加工・業務用に向く |
べと病耐病性 | R1~7,9,11,13,15,16 |
低温伸張性が高い
既存品種のなかからクロノスを見いだしたことで、冬季の生産量不足の課題解決につなげることができ、クロノスは主力品種となった。
引用:加工用ホウレンソウの品種選定による生産量安定化
2000年代のホウレンソウ栽培では、低温伸張性に優れるホウレンソウ品種がなかったため、生産者は冬場の収量低下という課題抱えていました。
その課題を解決したのが、サカタのタネが開発したクロノスです。
2012年ごろから徐々に広がり始め、今では全国的に普及する品種に。
秋冬まきホウレンソウの品種選びに迷ったら、まずはクロノスを試しましょう。
早生・濃緑・高収量
「クロノス」は播種後73日で草丈約40cmに達し、葉色も濃緑で収量性も高く、加工用途に最適であった
引用:学校給食向け加工用ホウレンソウの適品種と栽培方法
一般に、早生で伸びがよい品種は肥料への反応が敏感です。
窒素を与えるほどぐんぐん伸びる半面、徒長気味になって1株重が軽くなったり、葉色が薄くなりがちだったりします。
ところが、クロノスは早生で伸張性が高く、かつ濃緑・高収量と理想の特性をそろえています。
基礎的な能力の高い品種です。
加工・業務用に向く
加工・業務用に向く品種として「クロノス」を選定しました
引用:大きくして穫る加工・業務用ホウレンソウ
冷凍ホウレンソウなど、加工向けの需要は年々大きくなっています。
契約栽培が多く価格が安定する反面、単価は安い傾向にあるため、草丈40cmほどと大きな株で収穫して反収を稼ぎます。
クロノスは早生で伸張性が高く、かつ濃緑・多収の品種。
加工向けとしてもぴったりの特性と言えるでしょう。
その他の特性
- 立性で刈り取り収量が高い
- 葉が折れやすく、出荷調整時の作業性に劣る
- 早期収穫できるものの、在圃性に劣る
2位 ドンキー
濃緑の多収品種!
開発元 | サカタのタネ |
受賞歴 | 農林水産大臣賞受賞(神奈川県)、第71回全日本野菜品種審査会一等特別賞受賞 |
特性1 | 葉枚数が多く、収量性が高い |
特性2 | 葉が厚く濃緑、つやがあり商品性が高い |
べと病耐病性 | R1~11、13、15、16 |
葉枚数が多く、収量性が高い
幅広い作型に適応、作業性良、葉数多い。
引用:周年安定生産に向けた ほうれんそう栽培マニュアル
ドンキーは葉枚数増やすことで1株当たりの重量を稼ぎ、収量を上げるタイプの品種です。
ただ葉数が多いわりに横に広がりにくいので、となりの株の葉とあまり絡みません。
収穫や調整時のストレス軽減につながります。
また葉の伸長が分散するためか、在圃性が高いのもメリットの一つ。
葉が厚く濃緑、つやがあり商品性が高い
葉に厚みがあり、葉色が濃く艶があり品質に優れ、生育の揃いも良かった
引用:平成31年度試験成績書 令和2年せたな町農業センター
ホウレンソウをはじめとした葉物野菜は、「見た目の新鮮さ」が非常に重要です。
葉がペラペラで葉色が薄いと、いくら朝どりのとれたてでも見た目の新鮮さにかけてしまい、市場や取引先からの印象を悪くしてしまいます。
ドンキーは葉が厚く濃緑で、手にするとしなやかで張りのある質感です。
私も自分の手で収穫に入ったことがありますが、見た目があきらかにおいしそう!
その他の特性
- ハンターより生育が遅い
3位 福兵衛
作業性と収量性を両立!
開発元 | タキイ種苗 |
受賞歴 | 2017年度全日本野菜品種審査会2位 |
特性1 | 1株重が大きく、収量性が高い |
特性2 | 葉が折れにくく、作業性が高い |
べと病耐病性 | R1~12・14~16・19 |
1株重が大きく、収量性が高い
露地区では草丈、葉数があり、揃いが良く、重量があって葉色が濃く、品質評価が高かった
引用:高知市営農技術会議 令和2年度 研究等成果報告書
早生で草丈の伸長が早いわりに葉枚数もあり、収量性が高い品種です。
主根が太く、そこから伸びる充実した2次根、3次根が高収量を支えるポイント。
根張りがよいため、湿害にも強いとのことです。
葉が折れにくく、作業性が高い
葉色が薄く、出荷率は低いものの、対照品種に比べ福兵衛の方が収量、作業性が良
引用:公益財団法人広島市農林水産振興センター 平成31年度業務報告
く総合的に優れていると考えられる
ホウレンソウの葉の軸部分は、中が空洞でストローのようになっています。
葉の軸が太いほうが1株当たりの重量が増えて収量が上がるものの、空洞のせいで構造的に弱くなってしまい、収穫や出荷調整の際にぽきぽき折れる原因に。
福兵衛をはじめとするタキイのホウレンソウシリーズは、軸を肉厚にして空洞を小さくすることで折れにくく改良し、1株重量と作業性の両立を実現した品種群です。
その他の特性
- トラッド7よりやや生育が遅い
- オシリスより葉色が薄い
- 早生で低温伸張性に優れる
春~夏まきホウレンソウのおすすめ品種ランキング!
1位 ジャスティス
萎凋病に強い晩抽性品種!
開発元 | サカタのタネ |
受賞歴 | – |
特性1 | 晩抽性が高い |
特性2 | 萎凋病に強い |
べと病耐病性 | R-1~9、11~16 |
晩抽性が高い
7月下旬播種には十分な晩抽性がある
引用:旭川市4 ホウレンソウの作期別品種比較試験
ホウレンソウは長日条件で抽苔が進むため、5月~7月の栽培が最も難しいとされています。
ジャスティスはホウレンソウ育種で有名なのサカタのタネ品種の中でもトップレベルの晩抽性を持つため、春夏ホウレンソウ生産地で広く使われる定番品種です。
迷ったら、まずはジャスティスを選びましょう。
萎凋病に強い
「ミラージュ」、「ジャスティス」は、慣行品種「ブライトン」よりも安定して耐病
引用:転炉スラグを用いた土壌 pH 矯正と耐病性品種の併用による夏まきほうれんそうの萎凋病の被害軽減
性が強く、夏まき栽培に適する
ホウレンソウの大病害と言えば、秋や春の低温期に多いべと病。
一方、夏まきの高温下では、土壌伝染性の病害である萎凋病が多発します。
連作すると2、3作目から立枯れのような症状が始まり、ひどい圃場では全滅に近い被害に遭うことも。
対策としてクロルピクリンのような土壌消毒剤を処理するほか、ジャスティスのような強耐病性品種を選ぶことで収量低下を軽減できます。
その他の特性
- 晩抽サマースカイより早生で生育が早い
- 1株当たりの重量が少なく、収量が上がりにくい
- 葉色がやや薄い
2位 晩抽サンホープ
濃緑でつやのある晩抽性品種!
開発元 | カネコ種苗 |
受賞歴 | – |
特性1 | 高温化でも発芽よく収量安定 |
特性2 | 早生で収量性が高い |
べと病耐病性 | R-1~5・8・9・11・12・14・15 |
高温化でも発芽よく収量安定
夏まき作型において、2か年供試した14品種・系統の特性を調査しました。その結果、出芽が良好で収量性も安定していた「晩抽サンホープ」および高温条件下での出芽、生育、が安定し、収穫作業性も優れた「ミラージュ」が有望な品種です
引用:ほうれんそうの品種特性Ⅶ 平成21~22年(2年間) 上川農業試験場
ホウレンソウの上作に欠かせないのは、発芽の揃いです。
発芽がばらついてしまうと、その後の管理や収穫、調整すべてに影響が及び、収量や作業効率を落としてしまいます。
一方、ホウレンソウは暑さに弱い作物です。25℃を超えると発芽率が落ち、発芽が揃わなくなってしまいます。
夏まきの発芽にお悩みの方は、晩抽サンホープのような高温下の発芽に優れる品種を選びましょう。
早生で収量性が高い
‘晩抽サンホープ’、‘SCO-114’、‘サマービクト リー7’は生育が早く比較的収量が高い
引用:岩手県における生食用露地ホウレンソウの栽培方法
夏場は土壌病害や台風、大雨など厳しい栽培環境にさらされます。
晩抽サンホープは早生で生育がよいので、早く仕上げて逃げ切りたい方におすすめです。
その他の特性
- 晩抽性に優れ萎凋病に強いが、生育はやや遅い
- 収量は高いが、6月どりでは抽苔が発生することがある
3位 晩抽サマーヒット
欠点の少ない晩抽性品種!
開発元 | タキイ種苗 |
受賞歴 | 第64回野菜 2022年6月開(花き種苗改善審査会)1等 |
特性1 | 作業性、葉色、揃い性に優れる |
べと病耐病性 | R1~11・13・15・16・18 |
作業性、葉色、揃い性に優れる
4月下旬まきホウレンソウでは,立性で揃い,株張りがよく収量性に優れる「イーハセブン」,草丈,地上部の揃いに優れ,株張りもよい「サンホープセブン」,立性で揃い,葉色,株張りがよく,おしなべて欠点のない「晩抽サマーヒット」が有望である。
引用:〔有用遺伝資源の評価・利用〕4月下旬まきホウレンソウの品種比較
タキイ種苗の晩抽サマーヒットは、2023年に発表された新しい品種です。
公的機関の試験結果が少なく評価は難しいですが、葉の軸が肉厚で折れにくく作業性のよいタキイシリーズの特徴を受け継いでいるようです。
早生のジャスティスや晩抽サンホープに対し、晩抽サマーヒットはじっくりタイプ。
1株重量を大きくし反収を稼ぎたい方、在圃性がよく収穫スケジュールに余裕を持たせたい方におすすめです。
べと病に強い!1-19レースに対応!トキタ種苗のエクストリーム
べと病は年や地域によって流行するレースが変わります。
「隣の産地でレース17が流行っているらしい… 対応する品種はどれだ…?」
などと品種選びに苦労されている方も多いのではないでしょうか?
2022年秋、トキタ種苗より、現状確認されているべと病のレース1-19すべてに耐病性を持つ品種「エクストリーム」が発表されました。
べと病耐病性の他、第70回千葉県野菜品種審査会ホウレンソウの部で3位入賞するなど、栽培性の高さも期待できる品種のようです。
べと病対策にお困りの方、検討してみてはいかがでしょうか。
べと病の耐病性遺伝子は、単一の遺伝子座に位置する複数の対立遺伝子に支配されています。
今のところ6種類あると言われる耐病性遺伝子は、一つで複数のレースに耐病性を発揮しますが、F1品種の両親に乗せられる抵抗性遺伝子はそれぞれ1つづつだけ。
したがって、すべてのレースに対応する品種を開発するのは難しいと思われていましたが…
トキタ種苗の技術力の高さが、改めて分かりましたね。
土壌や気候条件に合った品種を選びましょう!
今回ご紹介した品種とその特性は、筆者の経験と全国の公的研究機関による栽培試験データをもとに構成されています。
本記事の内容は一般論であり、必ずしもみなさまの地域やその年の気象条件に当てはまるとは限りませんのでご了承ください。
参考文献を記載しておりますので、品種特性についてさらに詳しく知りたい方は以下のリストからどうぞ。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
※参考文献
冷凍加工用ホウレンソウの秋まき品種の選定
~小笠原におけるドック期間中の出荷を目指した晩秋まきホウレンソウの品種特性~
春まきホウレンソウの品種比較 10月上旬まきホウレンソウの有望品種の選定
札幌市 2 ホウレンソウの品種地域適応性調査について
10月上旬まきホウレンソウの有望品種の選定
加工・業務用ホウレンソウ秋まき露地栽培の播種期と品種が収量に及ぼす影響
加工用ホウレンソウの品種選定による生産量安定化
大きくして穫る加工・業務用ホウレンソウ
加工用ホウレンソウの刈取再生栽培法における 品種と栽培条件が収量および外観品質に及ぼす影響
兵庫県学校給食向け加工用ホウレンソウの適品種と栽培方法
令和元年度 新潟市農業活性化研究センター試験成績書 9 (参考調査)晩秋どりホウレンソウの品種特性調査
周年安定生産に向けた ほうれんそう栽培マニュアル
平成29年他移動旭川市 4 ホウレンソウの作期別品種比較試験 周年安定生産に向けた ほうれんそう栽培マニュアル
転炉スラグを用いた土壌 pH 矯正と耐病性品種の併用による夏まきほうれんそうの萎凋病の被害軽減
平成31年度試験成績書 令和2年せたな町農業センター
北海道旭川市2 ホウレンソウの作期別品種比較試験
8 ホウレンソウの作期別品種比較試験
加工・業務用ホウレンソウ秋まき露地栽培の播種期と品種が収量に及ぼす影響
北海道立総合研究機構ほうれんそうの品種特性Ⅶ
2 ホウレンソウの作期別品種比較試験 高知市営農技術会議
令和2年度 研究等成果報告書 公益財団法人広島市農林水産振興センター
平成31年度業務報告 春まきホウレンソウの品種比較 秋どりほうれんそうの優良品種
ホウレンソウ冬どりトンネル栽培の優良品種(第 68 回千葉県野菜品種審査会)
東京都4月下旬まきホウレンソウの品種比較
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